理事長挨拶
一般社団法人
日本痛風・尿酸核酸学会 理事長
(独立行政法人国立病院機構 米子医療センター 病院長)
久留 一郎
日本痛風・尿酸核酸学会 理事長からのご挨拶
2019年から世界的なパンデミックとなった新型コロナ感染症も昨年5月に5類に変更されて、私たちの研究活動も正常化してきました。多くの学会が対面となる中、日本痛風・尿酸核酸学会総会も昨年2月には、第56回学術集会が四ノ宮会長のもとで3年ぶりに東京において対面で開催されました。「知の深淵へ Unite Research, Art, Technology, and Education」というテーマで、すべての知を結集して、痛風・尿酸・核酸にまつわる謎を解き明かし、医療に活かしていくという会長の理念が凝集した学術集会でした。
さて、来る2月は、第57回学術集会が荻野会長のもと鳥取市で現地開催されます。「日本から世界へ発信した新知見」と「若手研究者による痛風・尿酸核酸領域のアップデート」という2つのシンポジウムが企画されています。まさに本学会の歩みの温故知新の企画であります。“龍年”にふさわしく当学会の活動が“登り竜”のように発展してゆくことを期待しております。
さて、最近の痛風・尿酸・核酸代謝研究の潮流を見ますと、新しい尿酸トランスポーターとしてGLUT12, OAT10並びにSVCT1/SVCT2が注目され、その局在と尿酸との関わりが注目されています。尿酸と脳梗塞やパーキンソン病並びにアルツハイマー型認知症等の脳神経疾患との関連が注目されています。また、高尿酸血症と臓器障害に関する臨床研究が複数報告されました。XOR阻害薬の高尿酸血症合併慢性腎臓病における腎機能の予後に及ぼす影響やXOR阻害薬が正常血清尿酸値患者の心血管イベント発症に及ぼす検討がなされ、いずれもnegativeな結果となっています。一方でXOR阻害薬が脳・心・腎・血管イベントのプライマリーエンドポイントを改善した報告や尿酸排泄促進薬とXOR阻害薬の併用による強化尿酸降下療法が腎保護を達成できる可能性も報告され、尿酸並びにXORが臓器障害のリスクか否かに関しての議論はこれからも続きます。痛風関節炎発症後に脳・心血管イベント発症が有意に増加すると報告されました。加えて近年、冠動脈や大動脈に尿酸塩結晶の沈着がDual energy CTにより証明され、尿酸塩結晶による血管障害が注目されています。コレステリン結晶と同様に尿酸塩結晶がNLRP3インフラマソームを活性化しlow gradeな持続性炎症を惹起して血管障害を起こす「血管内痛風」の概念が欧米で提唱されています。これらの研究は各学会のガイドラインの記載にも影響しています。CKDガイドライン2023では腎保護のための尿酸降下療法は弱い推奨となりました。肥満症ガイドライン2022では高尿酸血症の治療目標は6mg/dl以下と記載され、不整脈薬物治療ガイドライン2022では尿酸が心房細動のリスク因子と記載されています。現在、高血圧治療ガイドラインが改定作業中でありその記載が注目されます。このように各学会で尿酸への関心が高まっていますので、尿酸、痛風、核酸代謝研究を学会横断的に議論できる仕組みが必要でした。昨年学術交流委員会が発足しましたので本委員会を通して痛風・尿酸・核酸に関する課題が明確化され、当学会活動の活性化やガイドライン改定に役立つことが期待されます。
是非多くの方に、尿酸についての知識や痛風・高尿酸血症の治療・予防に興味を持っていただき、気軽に学会総会に参加して、これらの研究課題について議論出来れば幸いです。どうぞよろしくお願い致します。
令和6年1月5日
一般社団法人 日本痛風・尿酸核酸学会
理事長 久留 一郎